税務調査が行われ、受けた指摘に納得すると修正申告(又は無申告の場合の確定申告)を行うことになりますが、実は調査通知後(調査の連絡があった後)、調査が始まる前にこれらの申告書を提出することもできます。
これにより調査による税金の負担(特に加算税・延滞税)を減らせる可能性があるのは事実ですが、デメリットもあります。
本項ではこれらのメリット・デメリットについてまとめました。ご覧いただき、調査前に提出するかどうかの判断の一助としていただければ幸いです。

加算税・延滞税とは

加算税

加算税とは、正しく申告等をしなかったことに対してのペナルティです。期限内に、正しく申告等をした人とそうでない人との公平性を保つことが目的で、以下の4種類があります。

種類内容
過少申告加算税期限内にした申告について、税額が過少で修正申告・更正があった場合
無申告加算税申告期限後に申告した場合又は期限後の申告に対して修正申告・更正があった場合
不納付加算税源泉徴収等による国税を法定納期限までに納付しなかった場合
重加算税隠蔽・仮装があった場合に、上記に代えて課される

個人事業主の調査で多いのは、過少申告加算税(無申告の場合は無申告加算税)と重加算税です。

延滞税

延滞税とは、税金が定められた期限までに納付されない場合に課されるペナルティ、つまり利息です。
修正申告書又は期限後に提出された確定申告により納付する税額は、本来の期限を過ぎてからの納付となるため、期限後から納付日までの間、利息に相当する延滞税が課されます。
なお、延滞税には除算期間という特例があり、修正申告などにより納税額が生じる場合は、延滞税の計算期間は1年で一旦停止します。
ただし、重加算税が課される場合(不正があった場合)はこの特例はありません。

(参考:国税庁HP「延滞税について」)

調査前に修正申告等を提出した場合のメリット・デメリット

加算税の税率

加算税の税率は、以下のとおりとなります(追徴される税額に対して、税率分加算されます)。

修正申告書等の提出の時期過少申告加算税無申告加算税
①調査通知(調査の連絡)の前0%5%
②調査通知以後、調査による更正等の予知前5%10%
③調査による更正等の予知以後10%15%
※一定の要件を満たす場合、税率が上がります(参考:財務省HP国税庁HP

税務署からの調査の連絡がある前に提出すれば最も税率が低くなるため、これが一番望ましい形です。
調査の連絡後、「更正等の予知前」に修正申告書等を提出すれば、加算税は軽減されます。「更正等の予知」とは、「間違いがあって指摘されることを予想していたか」という意味になります。そのため、「更正等の予知」が、具体的にいつ時点を指すのかが重要となります。諸説ありますが、税務署では多くの場合は「税務調査時点(最初の臨場日)」を指すと考えています。

調査前の提出のメリット

大きく、次の2つがあるものと思われます。

加算税が軽減される

上記のとおり、「更正等の予知前」に修正申告書等を提出することになるため、加算税は軽減されます。

重加算税と7年遡及を回避できる可能性が高くなる

わかっていて売上を除外していた」など、「仮装・隠蔽行為」があると、重加算税が賦課されます。また、7年遡及して調査されます。
調査前に修正申告書等を提出することにより、これを回避できる可能性が高くなります(ただし、絶対ではありません)。
これは、重加算税の賦課を規定した国税通則法という法律(68条)に、「更正等の予知前に提出された申告書」は重加算税の対象とはならないと規定されているためです。
重加算税の税率は35%~50%となっており、それが7年分となると膨大な金額になる可能性があります。
また、上記延滞税の項目のとおり、「除算期間の特例」が適用されないため、延滞税も最大7年分となります。
重加算税が賦課されるかどうか、7年遡及となるかどうかで大きな違いがあることがお分かりいただけると思います。

調査前の提出のデメリット

次の2つのデメリットがあるものと思われます。

税務調査の期間が5年となる可能性が高い

通常、税務調査は過去3年分とされることが多いです。何かあったら5年分、脱税があったら7年分となるケースがほとんどです。
そのため、過去3年分に問題が少なく、追徴額も少額になる見込みなら3年分で終わります。
しかしながら、調査前に過去3年分の修正申告書等を提出した場合、当然、4年前、5年前の分も同様に修正申告が必要ではないのかと厳しめにチェックされ、結果的に過去5年分の申告が必要となるケースが多いです。
したがって、調査前に修正申告書等を提出する場合は、対象期間とされた3年分を超え、5年分申告する方が大多数となっています。
3年分で済むかもしれないところ、調査前に申告書を出すため5年分の修正が必要となることはデメリットとなります(国税だけなら得になる場合でも、住民税や国民健康保険まで影響する可能性があるため、慎重な判断が必要です)。

調査官のチェックがシビアになる可能性がある

調査の目的はあくまで申告内容や申告義務があるかどうかの「確認」ですが、調査官は申告の誤り、引いては不正を見つけようと、時間をかけ入念に準備をしているため、調査開始前に申告書が提出されると「肩透かし」を受けたような気持ちになります。
その悔しさをぶつけるかのように、通常は指導に留めるようなかなり細かい部分まで指摘される可能性があります(これは完全に担当の調査官次第です。私も調査官時代、このようなケースがありましたが、調査は通常どおり行いました)。

まとめ

調査前の修正申告書等の提出を検討した方がいいケースとは

わかっていて売上を除外していた」など、重加算税が賦課される可能性がある場合は、調査前の修正申告書等の提出を積極的に検討した方がいいと言えます。

売上除外等の「仮装・隠蔽行為」については厳しく指摘され、調査官が交渉に応じてくれることはありません。重加算税の対象とされ、調査期間も7年遡及されます。

調査官の技量には差があります。担当となった調査官が新人で、経験の浅さから見つけられない場合もあるかもしれません。しかし、少しでもその行為の端緒が見つかれば、納得するまで調べられ、場合によっては経験豊富な上役がフォローに入り、逃げ切ることはまずできないでしょう。

例えば、調査前に修正申告等を行った場合には、5年分での加算税率も低く済む(修正申告で加重がないなら5%)可能性があった場合であっても、通常通りに税務調査を受けて売上除外などが発覚した場合には、7年分遡及され、加算税率も高く(修正申告で加重がないなら35%)なります。

これをどう考えるかは人それぞれですが、重加算税が賦課されるようなことを行っている場合には、税務調査前の修正申告等を検討した方がいいと言えます。

まとめ

以上のように、調査前の修正申告等により税金を減らすことができますが、これにはメリットだけでなく、デメリットが存在します。これらを天秤にかけ、慎重な検討が必要となります。

もし誤りがあるようなら、調査とは関係なく、自主的に修正申告等を行うことを強くお勧めします。
もちろん、最初から正しい申告をしておくことが一番の対策です!
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