こんにちは!千葉のフリーランス・個人事業主専門の税理士、福地です。
妻が漫画家(「星旅少年」という漫画を連載しています)ということがあり、当事務所では漫画家さんなどのクリエイター応援プランを用意しております。
今日は平均課税という制度を紹介します。
印税などがある年だけいきなり増えた!税金の負担がものすごくなりそう・・・。そんなときに、負担を軽減できる制度です。
驚くほど効果が高いときもありますので、ぜひご覧ください。
そもそも平均課税とは
所得税は暦年、つまり1月1日から12月31日までの所得(=儲け)を元に計算します。
また、累進課税と言って、課税される所得が高いほど税率も高くなる仕組みで(不動産譲渡や株式譲渡などの分離課税は除きます)、所得が高いほど税金の負担も大きくなります。税率は5%から45%まで段階的に上がります。
(参考:国税庁HP「所得税の税率」)
そのため、数年間で考えた場合、トータルでは同じ所得金額でも、毎年同じくらいの所得の方と、1年だけボーンと所得が上がった方では、税負担に差が生じてしまいます。
具体的な数字で例を挙げてみましょう。
3年間のトータルの所得が900万円の方が二人いたとします。
Aさん:毎年300万円の所得が3年間あり
Bさん:ある年だけ900万円の所得があったものの、それ以外の年は0円
Aさんの所得税負担額
①3,000,000円×10%-97,500円=202,500円
※課税される所得金額が3,000,000円のときの計算は、10%を掛けて97,500円差引きます
②①×3年分=607,500円
(計算の簡略化のため復興特別所得税を除いています)
Bさんの所得税負担額
9,000,000円×33%-1,536,000円=1,434,000円(所得がない年の所得税の負担はありません)
※課税される所得金額が9,000,000円のときの計算は、33%を掛けて1,536,000円差引きます。
(こちらも同様に、計算の簡略化のため復興特別所得税を除いています)
同じ900万円の所得なのに、3年間で80万円以上も税負担に差が生じてしまうのです。
本人の意思でなく、漫画家さんの印税や自然資源に基づくもの(漁獲など)のように、自分でコントロールできないものが原因で差が生じている場合は不公平となります。
この不公平な差を埋めるのが平均課税という制度です。
対象となる所得
ただし、どんな所得でも平均課税を適用できるわけではありません。
平均課税制度の対象となる所得は「変動所得」と「臨時所得」に分類されていて、いずれも列挙されています。
以下、国税庁が出している「変動所得・臨時所得の説明書」から抜粋します。
変動所得
事業所得や雑所得のうち、漁獲やのりの採取による所得、はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝、真珠、真珠貝の養殖による所得、印税や原稿料、作曲料などによる所得をいいます。
臨時所得
①土地や家屋などの不動産、借地権や耕作権など不動産の上に存する権利、船舶、航空機、採石権、鉱業権、漁業権、特許権、実用新案権などを3年以上の期間他人に使用させることにより、一時に受ける権利金や頭金などで、その金額がその契約による使用料の2年分以上であるものの所得
②公共事業の施行などに伴い事業を休業や転業、廃業することにより、3年以上の期間分の事業の所得などの補償として受ける補償金の所得
③不動産、不動産の上に存する権利、船舶、航空機、採石権、鉱業権、漁業権、工業所有権等を3年以上の期間他人(その者が非居住者である場合の法第161条第1項第1号に規定する事業場等を含む。)に使用させる(地上権等の設定を含む。)ことにより一時に受ける権利金等で、その契約による年間使用料の2倍以上のもので譲渡所得以外のもの
④鉱害その他の災害により事業などに使用している資産について損害を受けたことにより、3年以上の期間分の事業の所得などの補償として受ける補償金の所得
⑤職業野球の選手などが、3年以上の期間特定の者と専属契約を結ぶことにより、一時に受ける契約金で、その金額がその契約による報酬の2年分以上であるものの所得
何だか難しい言葉が並んでいますが、漫画家さんにとって当てはまるのは、変動所得の「印税や原稿料、作曲料などによる所得」部分です。
印税や原稿料による所得が大きい場合、平均課税の適用ができるかどうか、検討してみましょう。
適用可否の判定
漫画家さんなど、印税や原稿料のある方についての適用可否について解説します。
平均課税が適用できる要件は次のとおりです(同じく、「変動所得・臨時所得の説明書」から抜粋します)。
平均課税適用要件
前々年、前年に変動所得がなかった方や、前々年、前年に変動所得があってもその合計額の2分の1の金額が本年の変動所得の金額に満たない方については、本年の変動所得の金額と本年の臨時所得の金額との合計額が本年の総所得金額の20%以上であること
ちょっと難しい言い回しなのでかみ砕くと、
・去年と一昨年、変動所得(印税や原稿料収入)が無かった方
・去年と一昨年の変動所得(印税や原稿料収入)の合計を2で割った平均が、今年の変動所得(印税や原稿料収入)の金額未満である方
(言い換えると、今年の変動所得が、過去2年の変動所得の平均より大きい方)
→いずれかに当てはまり、今年の変動所得(印税や原稿料収入)が、所得全体の20%以上であること
以上が平均課税を適用できる要件となります。
(臨時所得がある場合はこれ以外にも平均課税を適用できることがありますが、漫画家さんに臨時所得はあまりないと思いますので省略します)。
平均課税の計算方法
では、平均課税を適用すると、どのくらい税額が変わってくるのでしょうか。
平均課税の税額計算はちょっと難しいのですが、大まかに説明すると、変動所得の金額を1/5にし、その金額に通常の累進税率を適用します。
そして算出した税額を5倍します。
「変わらないんじゃない?」とお思いかもしれませんが、税率がグッと下がるので、大きく変わります。
上記のBさんの例で計算してみます。
1年目、2年目の所得が0円、3年目が印税などの変動所得のみとします。
平均課税を適用した場合の税額
①9,000,000円÷5=1,800,000円
②1,800,000円×5%=90,000円
※1,800,000円に対する税率は5%です。
③90,000円×5=450,000円
(計算の簡略化のため復興特別所得税を除いています)
平均課税を適用しないときの税額が1,434,000円でしたので、100万円近く減税となっています。
インパクトの大きさがお分かりいただけるかと思います。
開業1,2年目の方など、それまで変動所得自体が生じない状況だった場合でも適用でき、大きな効果が生まれる可能性がありますので、ぜひ検討してみてください。
変動所得の計算に注意
変動所得は印税や原稿料などの収入から、それに係る経費を引いた金額になります。
よって、イベントなどの直売会や通販で販売した同人誌などの売上・経費は、平均課税の適用対象とはなりません。
多くの漫画家さんにとっては、印税・原稿料収入と直売会等での売上と、両方があるのではないかと思います。
両方に共通する経費は、例えば収入額や使用割合など、合理的な方法で按分する必要があるので注意してください。
また、青色申告の方は、青色申告特別控除も按分する必要があります。
ご自身での判断が難しい場合や、帳簿も複雑になってくるので面倒な場合は、税理士に依頼し、申告書の作成までやってもらうことも検討してみてください。
知らなくてやっていなかった、でも大丈夫!
後から適用できます!
平均課税の制度自体知らず、今までやっていなかった、という方もいらっしゃると思います。
でも大丈夫です。一度出した確定申告で平均課税を適用していなくても、後から「更正の請求」という手続きを行い、税務署に認められれば、税額を減らすことができます(時効が5年となっているので、それより前の分はできません)。
ただし、「更正の請求」の手続きには、変更内容の証拠書類を添付する必要があるので注意です。
平均課税の適用を受けるための証拠書類とはどういったものがあるか。実際に私が更正の請求書を提出したときは、「変動所得」であることがわかる書類(印税の明細や、原稿料とわかる支払調書や請求書など)を添付し、認められました。
まとめ
平均課税は大きな効果があることもあります。
また、継続適用が要件になっているわけではないので、一昨年・去年と適用していない場合でも適用できます。
積極的に適用を検討してみてください。
なお、残念ながら住民税には平均課税自体の適用がありませんので、住民税や国民健康保険の金額には変わりはないのでご注意ください。
当事務所では漫画家さんをはじめとしたクリエイターさんのサポートを積極的に行っています。ご自身ではわからない、やるのが面倒、ということがございましたら、ぜひ当事務所までお声がけください!
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