こんにちは!千葉のフリーランス・個人事業主専門の税理士、福地です。

ちょっと古いんですが、こんな記事を見つけました。

私、年収400万円なんですけど…“税務調査”が、30代・庶民のもとへやってきた理由。下された追徴課税に「血も涙もない」】(Yahoo!ニュース)

この調査された人の概要

調査対象者のAさんはアパレル仕入販売業を営む30代女性だそうです。

プロ向けの洋服の仕入サイトから売れそうな洋服を仕入れて、きれいに撮影したあとメルカリなどで販売するというもの。転売、せどりのような形態です。

開業から5年、毎年青色申告をしており、65万円の特別控除を適用していたといいます。

年収は400万円、と言っていますが、売上なのか所得なのかわかりません。
売上400万円とすると所得は150万円から250万円といったところでしょうか。
さすがにその規模で税務調査が来るのは稀だと思うので、所得が正しいのでしょうかね。

追徴は合計100万円!?

調査された理由とは

調査が入った理由、それは青色申告特別控除65万円にありました。

65万円の特別控除適用には、
①事業所得の取引を正規の簿記の原則(複式簿記)で記帳し、帳簿を作成すること
②上記の記帳に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに当該申告書を提出すること。
③総勘定元帳などを電子帳簿保存していること又は上記の確定申告を電子申告(e-Tax)で提出していること

という要件があります。

この方はこのうちの①の帳簿に不備があったそうです。それも複式簿記で作成していなかった、ではなく、帳簿自体を作成していなかったようです。

ほんとかなこの記事。さすがに帳簿全く作っていないのに青色申告して65万円の控除を適用するって大胆過ぎる気がするんですが。

追徴税額は100万円!?

記事によると、65万円×3年分の所得が増加、所得税・住民税の税率分の追徴があったとのこと。65万円が否認されても10万円は特別控除として適用できるので、55万円×3年分のような気がしますが、青色も取消しされたんですかね。まぁともかく、65万円×3年分だそうです。

記事では触れていませんが、調査で修正申告があると本税の追徴に加え、「過少申告加算税」という加算税、本来の納期からの延滞税がペナルティ的に賦課されます。

所得が400万円とすると、所得税の税率は20%、住民税の税率は10%。
所得税は65万円×3年分×20%で、39万円。過少申告加算税はその10%のため、3.9万円。
住民税が10%なので、同様に65万円×3年分×10%で19.5万円。

さらに、もしこの方が国民健康保険であるなら、率は平均10%ほどなので、65万円×3年分×10%で19.5万円。

合計すると81.9万円。これに所得税・住民税・国民健康保険の延滞税を加えると、100万円に届くような金額になります。

年収400万円で追徴100万円は強烈ですね。

問題点

言うまでもなく、帳簿を付けていないことですね。

個人事業主である以上、帳簿を付けるのは義務です。青色であっても白色であっても同じです。

お仕事が忙しく、また帳簿を付けるのはめんどくさい、大変。

よくわかります。しかしそれなら税理士に依頼すべきです。

帳簿を付けるのはめんどくさい、知識を付けるための勉強をするのもイヤ、税理士にお金を払うのもイヤ、税金を払うのもイヤ。これはまかり通らないでしょう。

税理士に頼むのは、こうした面倒さの解消と安心・時間を得るため、ということも大きな理由ではないでしょうか。

そしてこの方、最後のセリフが「私みたいな収入の人からではなく、もっとたくさん稼いでいる人のところへ行けばいいのに。税務署は血も涙もない」

まぁ似たようなことを言われたこと、ありましたけどね。

反省の色ゼロですね。まるで税務署が悪代官のように言っていますが、悪いのは間違いなく本人です。やらなきゃいけないことをやっていないわけで、帳簿付けておけばいいだけの話ですからね。

税務署はどこに目を付けたか

さて、この記事の方が実在するかどうかは甚だ疑問ですが、実際にこうした事例・規模で税務調査に行くことはあるでしょう。だとしたら、税務署はどこに目を付け調査対象とするでしょうか。

それは確定申告書に添付する貸借対照表がメチャクチャだった場合かな、と思います。

65万円の控除を適用するには、複式簿記で記帳の上、この貸借対照表をキッチリと作成する必要があります。

ですが、それができていない申告が多いこと多いこと。例えば「現金」と「元入金」にしか数字が入っていなかったり、「事業主貸」「事業主借」にしか数字が入っていなかったり、「現金」がマイナスであったり。

それでも貸借対照表が提出され、一応数字が入っていれば、65万円控除がその場で否認されることはまずありません。

否認されるのは、この記事のように税務調査があったときです。3年分とか5年分とかまとめて否認されることもあり、追徴も大きくなる場合があります。そしてそれを狙い、メチャクチャな貸借対照表を出してきた人をマークしておくのです。

年収が低い=税務調査に来ない、ということはありません。年収が低くても、「65万円控除の否認」といった具合に狙いを定めて来ることはよくあります。

終わりに

安価で使い勝手のいい会計ソフトがあり、65万円控除のハードルは低くなっていると言えます。

実際、国税庁のHPでも、市販の会計ソフトを利用することで、簡単にかつ負担なく複式簿記の記帳をすることができる、とアナウンスしています。

ですが、本当に正しくできているかどうかを保証するものではありません。実際、現金がマイナスというような、本来あり得ない貸借対照表が出来上がってしまい、それが提出されているわけです。

そしてそれを調査で否認されたとしても、全ての責任は自分にあります。

そうならないためには、ある程度勉強して知識を付けるか、費用はかかりますが青色申告会や税理士などを利用する、といった対策は必要になると思います。

【編集後記】
寒いです。家族がみんな咳をしています。